はじめに
「前にも教えたよね?」「なんでできないの?」と、みんなの前で責められる。質問すると露骨に嫌な顔をされ、自分にだけ返事がない。同期と比べられるたびに、病棟へ行くのが怖くなる。
それでも新人のうちは、「私の覚えが悪いから」「厳しく教えてもらっているだけ」と、自分を責めてしまいがちです。
けれど、患者さんの安全のために必要な指導と、新人を萎縮させる言動は同じではありません。人格否定、ひどい暴言、無視や仲間外しなどは、状況によってパワーハラスメントになり得ます。
この記事では、いじめが起こりやすい病棟の構造、厳しい指導との違い、自分を守る順番を、私の体験と公的資料をもとに整理します。まず「自分だけが悪い」という見方から離れてみてください。
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いじめと厳しい指導は何が違う?
医療現場では、危険な行動をその場で止めるため、強い口調になる場面もあります。一度の注意だけですべてを「いじめ」とは判断できません。
見るべきなのは、言葉の強さだけではなく、何を直すための言葉だったか、方法が相当だったか、その後に具体的な説明や支援があったかです。
| 見るポイント | 必要な指導 | いじめ・ハラスメントを疑う言動 |
|---|---|---|
| 目的 | 患者安全と技術の習得 | 感情をぶつける、従わせる |
| 伝える内容 | 行動や手順を具体的に示す | 「向いていない」など人格を否定する |
| 方法 | 必要な場で簡潔に止め、後で説明する | 人前で怒鳴る、長時間責め続ける |
| 公平さ | 同じ基準で振り返る | 特定の新人だけ無視・仲間外しにする |
| 指導後 | 改善方法と再確認の機会がある | 質問を拒み、失敗だけを責める |
厚生労働省は、職場のパワーハラスメントを、①優越的な関係を背景とする言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えるもの、③就業環境を害するもの、という3要素で説明しています。代表例には「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」などがあります。
該当性は、経緯・頻度・継続性・心身への影響などを含めて個別に判断されます。ただし、判定がつくまで我慢する必要はありません。質問できず安全な看護が難しい、眠れないほど怖いと感じたら相談してよいのです。

新人看護師へのいじめが起こりやすい5つの理由
いじめは、新人の性格だけで起こるものではありません。忙しさ、教育の曖昧さ、上下関係、周囲の沈黙が重なると、特定の新人へ負担が集中しやすくなります。
1.新人が先輩の知識と評価に依存しやすい
新人は、手順、独り立ちの判断、勤務中の助けの多くを先輩に頼ります。そのため「嫌われたら教えてもらえない」「評価を下げられる」と反論しにくい立場です。
この力の差に無自覚だと、注意が支配に近づいても新人は拒みにくくなります。
2.「自分も厳しくされた」が引き継がれる
「私たちの頃は見て覚えた」「怒られて一人前になった」という経験が繰り返されることがあります。しかし、耐えられた人だけを基準にすると、学び方の違いが見落とされます。
つらかった経験を次の新人にも与えることは、教育の質を保証しません。新人看護職員研修は、部署の指導者一人に任せきりにせず、組織全体で支える視点が大切です。
3.忙しさが、感情的な指導にすり替わる
人手が足りず先輩にも余裕がないと、説明時間が削られます。新人の確認を「今それ聞く?」と遮り、あとでできなかったことだけを責める流れも起こります。
忙しさは背景にはなっても、怒鳴る、無視する、人格を否定する理由にはなりません。むしろ質問が止まる環境は、患者安全にも影響します。
4.教え方と評価基準が人によって違う
昨日はよいと言われた手順を、今日は別の先輩に否定される。基準が共有されない病棟では、新人は正解よりも「今日の先輩を怒らせない方法」を探すようになります。
基準が曖昧なまま失敗を能力不足にすると、指導側の課題が見えません。
5.周囲の「見て見ぬふり」で普通になる
人前で怒鳴られても誰も止めず、相談しても「昔からそうだから」と流される。こうした反応が続くと、病棟全体が新人を孤立させる文化になります。
いじめを行う人が一人でも、相談ルートが機能せず、周囲が黙認しているなら、問題は個人間の相性だけではありません。

新人が追い詰められる流れ
新人が萎縮すると、報告や質問の回数が減ります。すると確認不足が起きやすくなり、さらに責められ、「やはり自分はできない」と思うようになります。
- 質問や報告をすると、嫌な顔をされる
- 怒られるのが怖くなり、声をかけるのが遅れる
- 確認不足や小さなミスが増える
- 「新人の能力が低い」と、さらに責められる
- 自信を失い、助けを求める力まで弱くなる
新人の努力だけでは改善しにくい悪循環です。必要なのは、質問できる時間、確認先、共有された指導基準、相談後に不利益を受けない仕組みです。
覚えておきたいこと:「話せない」「報告だけで動悸がする」という変化は誰にでも起こり得ることです。安心できない環境に心と体が反応している可能性があります。
私も、怒られないことだけを考えていました
新人の頃の私は、「前にも教えたよね?」「なんでできないの?」と言われ、同期と比べられていました。ナースステーションで皆の前で強い口調で注意され、質問をすると空気が悪くなる。自分にだけ冷たい反応をされているように感じる日もありました。
次第に、学ぶことよりも、怒られずに一日を終えることが目標になりました。報告も質問も怖くなり、できるだけ存在を消そうとしていました。
真面目なほど「もっと頑張れば認められる」「私に原因がある」と考えます。私もそうでした。
転機は、同世代の看護師が別の職場で穏やかに働いていると知ったことです。転職サービスへ登録し、ほかの教育体制や働き方を調べました。
その後、質問しても責められない職場で働き、「看護師の職場は全部同じではない」と分かりました。少しずつ自信も戻りました。
転職だけが答えではありません。ただ、今いる病棟の普通を、看護師の世界すべての普通だと思わなくてよいのです。
いじめかもしれないと感じたときの対処法
相手を一人で説得するより、自分の安全と事実を守りましょう。すべてを順番どおりに行う必要はありません。
1.その日のうちに、事実を記録する
厚生労働省は、いつ・どこで・誰が・何を・何のために・どのように行ったかを記録するよう案内しています。感想と事実を分けて残します。
- 日時と場所
- 相手の名前と、その場にいた人
- 言われた言葉を、覚えている範囲でそのまま
- 自分が行っていた業務と、その後の対応
- 眠れない、動悸がしたなど心身への影響
- 誰に相談し、どのような返答だったか
患者氏名、病名、IDなどの個人情報は書き写したり、院外へ持ち出したりしないでください。録音を考える場合も、患者情報や院内規程などが関わるため、外部窓口へ先に相談すると安心です。

2.加害者と利害関係の少ない人へ相談する
プリセプターが相手なら教育担当者や師長へ、師長が相手なら看護部、人事、相談窓口、産業保健スタッフへ相談先を移します。同僚に同席を頼んでも構いません。
「○月○日、ナースステーションでこの言葉を言われた」「質問できず確認に支障が出ている」「担当変更を検討してほしい」と、事実と希望を分けて伝えます。
3.院内で難しければ、外部窓口を使う
日本看護協会は、職場の相談窓口に相談しにくい場合、外部の相談先も検討するよう案内しています。厚生労働省の「総合労働相談コーナー」は無料で、電話相談もできます。
相談は、処分を求めると決める行為ではありません。制度や次の選択肢を確認するためにも使えます。
4.心身の不調があれば、勤務より回復を優先する
眠れない、食べられない、出勤前に涙や吐き気が出る、休日も緊張が抜けない状態が続くなら、我慢で乗り切る段階ではないかもしれません。産業医、心療内科・精神科などの医療機関、地域の相談先につながり、休養や勤務調整を相談してください。
「消えたい」「自分を傷つけたい」と感じる、今夜を一人で安全に過ごせないという場合は、仕事の判断より安全確保が先です。身近な人、医療機関、地域の緊急相談先へすぐに連絡し、一人にならないでください。
5.相談しても変わらないなら、職場の外も見る
相談後も行為が続く、相談内容が広まり不利益を受ける、教育体制が機能しない場合は、院内異動や転職を検討する理由になります。
新人看護師が壊れやすいブラック病院の特徴も確認すると、個人間の問題なのか、病院全体の仕組みなのかを分けやすくなります。

残る・異動・転職をどう考える?
選択肢は「我慢して残る」か「すぐ辞める」かの二つではありません。改善可能性と余力を分けて考えます。
| 選択肢 | 検討しやすい状態 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 今の部署で続ける | 相談後に担当変更や指導改善が進み、安全に質問できる | 期限を決めて改善を振り返れるか |
| 院内異動 | 病院の制度や待遇は合うが、部署の文化・人間関係が合わない | 異動時期、教育体制、相談内容の共有範囲 |
| 休養する | 心身の不調が強く、比較や判断をする余力がない | 受診、診断書、休職制度、生活費 |
| 転職する | 相談しても改善せず、組織全体の文化や安全面に問題がある | 次の職場の教育・相談体制、退職時期 |
転職サービスへの登録は、転職の即決ではありません。教育方法、配属後のフォロー、離職の背景を尋ね、今の職場と比較するためにも使えます。一社の説明だけで決めないことも大切です。
看護師は転職するべき?迷ったときの判断基準では、今すぐ辞めない方がよい場合も含めて整理しています。
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「相談後の改善を見守る」と決めても構いません。選択肢を知ることは、判断を取り戻す一歩です。
よくある質問
Q.一度強く注意されただけでも、いじめですか?
一度の注意だけでは判断できません。患者安全のため緊急に行動を止める場面もあります。ただし、人格否定などは一回でも就業環境を害する場合があります。目的、言い方、場所、その後の説明を記録しましょう。
Q.私が気にしすぎているだけでしょうか?
気にしすぎているだけ、と思い込まなくて大丈夫です。法的な判断と、「質問できず仕事に支障がある」「心身に症状があるため相談すること」は別です。事実と影響を分けて伝えましょう。
Q.師長が相手で、病棟内に相談できる人がいません
看護部、人事、院内のハラスメント窓口、産業保健スタッフなど、病棟の指揮命令系統から外れた窓口へ相談します。院内で難しければ、都道府県労働局の総合労働相談コーナーなど外部機関も利用できます。
Q.新人のうちに異動や転職を考えるのは早いですか?
経験年数だけで早すぎるとは言えません。相談で改善できる余地、心身の状態、患者安全への影響、組織の対応を確認します。退職を急いで決める必要はありませんが、壊れるまで耐える必要もありません。
まとめ|あなたの弱さではなく、病棟の仕組みの問題かもしれません
- 必要な指導は、行動を具体的に伝え、改善方法を示す
- 人格否定、人前でのひどい叱責、無視・仲間外れは「教育」で片づけない
- 上下関係、忙しさ、曖昧な教育、周囲の黙認が重なると、いじめが続きやすい
- 日時、言葉、目撃者、心身への影響を、患者情報を除いて記録する
- 病棟内で難しければ、看護部・人事・相談窓口・外部機関へ相談する
- 残る、異動、休養、転職を比べ、自分の安全を基準に選んでよい
新人だから分からないことがあるのは当然です。質問のたびに萎縮する環境まで、努力不足として背負う必要はありません。まず今日の出来事を一つ記録し、病棟の外にもつながれる相手を一人探してください。
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参考資料
- 厚生労働省「あかるい職場応援団|パワーハラスメントとは」
- 厚生労働省「あかるい職場応援団|悩んでいる方」
- 日本看護協会「看護現場におけるハラスメント対策」
- 厚生労働省「新人看護職員研修ガイドライン改訂版について」
※本記事は一般的な情報をまとめたものです。個別事案の法的判断や診断を行うものではありません。






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