「患者さんの顔が、家に帰ってからも頭から離れない」
「あのとき、もっとできることがあったのではないか」
「次の勤務で同じことが起きたらと思うと怖い」
初めて患者さんを看取ったあと、勤務中の場面やご家族の声を何度も思い出してしまうことがあります。周囲の先輩が普段どおりに働いていると、「いつまでも引きずる私は看護師に向いていないのかな」と感じるかもしれません。

けれど、目指したいのは患者さんの死を無理に忘れることではありません。起きたことと自分の感情を少しずつ整理し、一人で抱え込まない形に変えていくことです。
この記事では、初めての看取りが忘れられない理由、先輩と振り返るときの伝え方、自分を責め続けないための整理方法を解説します。
先にお伝えしたいこと
眠れない、食べられない、急に涙が出る、勤務中に体が固まるなど、生活や仕事への影響が出ているなら、時間が解決するまで一人で耐えなくて大丈夫です。上司や教育担当者、産業保健スタッフ、医療機関などへ早めに相談してください。
初めての看取りを引きずるのは、弱いからではありません
患者さんの死に動揺することと、看護師として仕事ができないことは同じではありません。
新人看護師にとって初めての看取りは、学んできた「死」が、自分の受け持ち患者さんに起きる最初の経験です。状況を理解しようとしても、感情がすぐには追いつかないことがあります。
新人看護師が患者の死をどのように経験するかをまとめた系統的レビューでも、患者の死が強い感情を伴う経験となり、準備や周囲からの支援が重要であることが示されています。
平気そうに見える先輩にも、勤務中は感情をいったん脇へ置き、あとから振り返る人がいます。反応の出方や整理に必要な時間は同じではありません。「早く普通に戻らないと」と急ぐ必要はないのです。
新人看護師が患者さんの死を忘れられない5つの理由
1.最期の場面だけが繰り返し浮かぶから
モニターの音、呼吸の変化、ご家族の表情、死後の処置をしたときの静けさ。看取りの前後には、普段の勤務とは違う感覚的な記憶が残りやすい場面があります。
帰宅して緊張がほどけたあとや、眠ろうとしたときに病室の光景が浮かぶこともあります。「思い出さないように」と押さえ込むほど、意識が向いてしまう場合もあります。
思い出した自分を責めるのではなく、まずは「今、私はあの場面を思い出してつらくなっている」と気づくだけで構いません。
2.「もっとできたかもしれない」という答えのない問いが残るから
「もっと早く変化に気づけたのでは」
「最期にかけた言葉は、あれでよかったのか」
「ご家族へ、ほかにできることがあったのでは」
看取りのあとには、正解を確認できない問いが残ります。病状の経過、治療方針、家族の希望を一つの流れで理解できないまま、その空白を自分の責任で埋めると、自責が大きくなります。
3.悲しんでよい立場なのか分からないから
ご家族ほど長く患者さんを知っているわけではない。それでも、毎日関わった患者さんが亡くなれば悲しい。この二つの間で、「看護師なのに感情的になってはいけない」「私が泣くのは違う」と感情の置き場所が分からなくなることがあります。
勤務中にご家族への配慮を優先することと、自分の感情まで否定することは別です。患者さんを大切に思ったからこそ残る悲しみもあります。
4.周囲が普段どおりで、自分だけ取り残されたように感じるから
看取りのあとも、病棟ではナースコールが鳴り、次の処置や記録が続きます。先輩がすぐ仕事へ戻る姿を見ると、「こんなにつらいのは私だけ?」と孤独を感じるかもしれません。
しかし、普段どおりに見えることは、何も感じていないことの証明ではありません。表に見える反応だけで、自分の感情を評価しないでください。
5.看取りの経験を振り返る時間がないから
急変対応や死後の処置を終えても、そのまま受け持ち業務へ戻り、勤務後は記録に追われることがあります。経過を確認する時間も、感じたことを話す場もなければ、分からなかった点と悲しさが混ざったまま残ります。
忘れようとする前に必要なのは、短くても「何が起きたのか」「自分は何を感じたのか」を分けて振り返る時間です。

看取りのあとに、まず行いたい4つのこと
1.「事実」と「気持ち」を分ける
頭の中で振り返ると、観察した事実と自分への評価が混ざりやすくなります。次のように分けてみてください。
| 事実として確認できること | 自分の中に浮かんでいる考え・感情 |
|---|---|
| 呼吸状態の変化を観察し、先輩へ報告した | もっと早く気づくべきだった気がする |
| 先輩と一緒に必要なケアを行った | 何もできなかったように感じる |
| ご家族がそばで過ごせるよう環境を整えた | かけた言葉が正しかったか不安 |
事実を確認しても、悲しさがすぐ消えるわけではありません。ただ、「分からないこと」まで自分の責任として抱えるのを防ぎやすくなります。
個人のノートへ書く場合は、氏名、病名、日時など患者さんを特定できる情報を残さないでください。臨床経過の確認は、院内の記録と守秘義務を守れる場所で行います。
2.先輩に「5分だけ振り返りたい」と伝える
つらさを相談したくても、忙しい先輩へ何と声をかければよいか迷います。そんなときは、相談の目的を短く伝えます。
「昨日の看取りが頭から離れません。経過を理解できていないところもあるので、5分だけ一緒に振り返っていただけませんか」
「自分の対応で確認したい点があります。今日の業務が落ち着いたときに相談してもよいですか」

感情だけでなく、「経過を理解したい」「次に備えて確認したい」と添えると、相手も時間を作る必要性を理解しやすくなります。
3.自分にできたことを一つ、言葉にする
看取りのあとには、できなかったことばかりが大きく見えます。けれど、看護は救命できたかどうかだけで評価されるものではありません。
口腔内を整えた。苦痛の変化を報告した。ご家族が触れやすい位置に椅子を置いた。慌ただしい病室を整えた。患者さんへ最後まで声をかけた。
小さく見えても、その時間を支えるために行った看護です。「何もできなかった」で終わらせず、自分が担った行動を一つだけでも確認してください。
4.その日の体を勤務から帰す
強い緊張のあとに、頭だけで気持ちを切り替えようとしても難しいことがあります。帰宅後は、温かいものを飲む、入浴する、食べられるものを少量とる、照明を落とすなど、まず体が休める状態を作ります。
眠る前に考えが止まらないときは、「今夜中に答えを出さなくてよい。確認は次の勤務で行う」と紙に一行だけ書き、考える時間を翌日に移します。
休日まで病棟のことが頭から離れない状態が続く方は、新人看護師が休みの日も仕事のことばかり考えてしまう理由も参考にしてください。
自分を責めない振り返りは、4項目で十分です
振り返りは、何度も同じ場面を再生する「一人反省会」ではありません。次の4項目だけを整理します。
- 起きたこと:自分が観察した変化と、そのとき行った報告・ケア
- 分からないこと:病状の経過、判断の理由、ケアの目的
- 自分が担えたこと:患者さんやご家族のために実際に行ったこと
- 次に確認すること:先輩へ質問する内容、院内手順で見直す点
もし「報告が遅れたかもしれない」「手順に沿えていたか不安」など、医療上の確認が必要な点があるなら、自分だけで死因や責任を決めないことが大切です。速やかに上司へ伝え、勤務先の手順に沿って事実を確認します。
確認が必要な事実と、「自分のせいで亡くなったのでは」という感情を分ける。これは責任から逃げるためではなく、正確に振り返るためです。
忘れようとするより、「持ち帰らない形」を作る
患者さんを忘れないことと、毎晩自分を責め続けることは同じではありません。
覚えておきたい関わりや学びは残してよい一方で、勤務後まで臨床判断を一人で続ける必要はありません。疑問は院内で確認し、感情は信頼できる人へ守秘義務の範囲で話す。仕事と私生活の境界を作ることで、記憶を消さずに日常へ戻っていけます。
避けたいのは、次のような抱え方です。
ご家族への連絡、弔問、葬儀への参列などを考える場合も、個人で判断せず勤務先の方針を確認してください。

つらさが生活や勤務に広がっているなら、早めに相談してください
看取りからの日数だけで、「もう立ち直るべき」と線を引くことはできません。ただし、次のような状態がある場合は、一人で様子を見続けないでください。
- 眠れない、途中で何度も目が覚める状態が続く
- 食欲が落ち、日常生活に影響している
- 病室の場面が繰り返し浮かび、強い動悸や恐怖が出る
- 次の看取りや似た病室を避けたくなり、勤務が難しい
- 涙が止まらない、何も感じない状態が強くなっている
- 「消えたい」「自分を傷つけたい」という気持ちがある
相談先は、プリセプター、リーダー、師長、教育担当者、院内の心理職・産業保健スタッフ、医療機関などです。厚生労働省の「こころの耳」では、働く人向けの電話・SNS・メール相談や、全国の医療機関検索が案内されています。
自分を傷つけたい気持ちがある、今夜を一人で安全に過ごせないと感じる場合は、勤務のことより安全を優先し、身近な人や医療機関、地域の緊急相談窓口へすぐにつながってください。
心身の変化がほかにも重なっている方は、新人看護師が限界になるサインもあわせて確認してください。
FAQ
Q1.看取りのあと、家で泣いてしまうのはおかしいですか?
泣くことだけで、看護師に向いていないとは言えません。勤務中に役割を果たしたあと、帰宅してから感情が出る人もいます。泣かない人も含め、反応には違いがあります。大切なのは、生活や勤務への影響が続いているのに一人で我慢しないことです。
Q2.患者さんを思い出すたび、「私のせいかもしれない」と考えてしまいます
自分の記憶だけで原因や責任を決めないでください。観察したこと、報告したこと、指示されたことを事実として整理し、臨床上の疑問は上司や先輩と院内で確認します。確認すべき点があれば勤務先の報告手順に従い、感情による結論と分けて扱うことが必要です。
Q3.先輩が平気そうに見えます。私も早く慣れるべきですか?
外から見える反応だけでは、その人が何を感じているかは分かりません。経験を重ねても悲しさを感じる人はいますし、勤務後に振り返る人もいます。「何も感じなくなること」を成長の目標にしなくて大丈夫です。次の看護へつながる形で経験を整理できることの方が大切です。
Q4.患者さんの葬儀へ行ったり、ご家族へ連絡したりしてもよいですか?
個人の判断で連絡や参列をせず、まず勤務先の方針を確認してください。患者さん・ご家族との関係、守秘義務、職業上の境界への配慮が必要です。ご家族へ伝えたい思いがある場合も、師長などへ相談して適切な方法を確認しましょう。
まとめ|忘れられないままでも、一人で抱えなくていい
初めての看取りを引きずるのは、あなたが弱いから、看護師に向いていないからとは限りません。
患者さんの最期に立ち会い、何ができたのか、もっと何かできなかったのかを考える。それは、患者さんを一人の人として大切に見ていたからこそ生まれる思いでもあります。
ただ、その思いを一人で抱え続ける必要はありません。
まずは、起きた事実と自分の気持ちを分ける。分からない経過は先輩と確認する。自分にできた看護を一つ言葉にする。そして、眠れない、食べられない、勤務が難しいなどの影響があるときは、早めに助けを借りてください。
忘れることが区切りではありません。患者さんから受け取ったものを、自分を責める材料ではなく、次の患者さんへ向き合うための経験に変えていく。その過程を一人にしないことが、今のあなたに必要なケアです。
参考資料
- Zheng R, Lee SF, Bloomer MJ. How new graduate nurses experience patient death: A systematic review and qualitative meta-synthesis. International Journal of Nursing Studies. 2016;53:320-330. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26493131/(2026年9月10日閲覧)
- 厚生労働省「こころの耳:相談窓口案内」https://kokoro.mhlw.go.jp/agency/(2026年9月10日閲覧)
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